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 『ダメおやじ』
 
 
ドメスティック・バイオレンス(DV)という、夫が妻へ暴力を振るうことが社会問題となっているなか、恐妻家、
それもとてつもないレベルの俺…
ウトノキフという男の存在はかなり珍しいだろう。
 
 
 
*** 我が家・居間 ***

     バン! バン!!

「ダメおやじ! なんだい、今月もこれぽっちかい!?」
「………。」
「このっ、甲斐性なし! トーヘンボク!!」
俺が、オニババと呼んでいる(心の中で)自分の嫁は、俺の今月の給料明細を見て、テーブルを叩きながら、
大きな怒声を上げる。
毎月のように繰り返されるお決まりの光景だ。
少し視線をずらすと、襖の隙間から、娘や二人の息子たちが覗いて冷笑を浮かべている。


「ちっ! お前なんかと結婚した私は、とんだ大馬鹿者だよ!!いっそ、生命保険でも掛けて死んじまってくれっちまった方が、私や子供たちのためになるのにねぇ!!」
そういうとオニババは、煙草を咥えながら部屋を出て行く。
そして、しばらくしてから玄関の方から、バタンと大きな音が聞こえ、安普請の借家が揺れる。
オニババは家が揺れるぐらい、乱暴に玄関のドアを閉めていったようだ。
おそらくパチンコでも打ちに行ったのだろう。


家族からダメおやじと言われている俺の今の状態、家族構成といい、まるで”ダメおやじ”だなと、
アニメ化もした随分古い漫画を思い浮かべてしまう… 
 
 
*** 回想 ***

学生時代の俺は、親のスネをかじりながらろくに学業も励まず資格も取らずに、毎日をアニメや漫画を見たり、
ゲームをやったりするという、とてつもなく自堕落な生活を送っていたのだ。
そして重度のおたくだった俺は、草薙桂のように風見みずほのようなイイ女と結婚するんだと誓っていた。
しかし、俺が結婚した相手はブスではないが、それほど美人ではない相手だった。


自堕落な生活を送っていた俺でも、奇跡的に学校を卒業し就職できた。
しかし、社会人になっても、だらしない性格は全く改善できず、いつまで経ってもぺーぺーで、そして何よりも、
学校に行く以外はヒッキー状態で、ろくに友達がいなかったため、人付き合いがとてつもなく下手だった。
このことは、かなり致命的だったのだ。
なぜなら、会社という組織の集団で働くということにとって、人付き合いという基本的なモノは、重要な大部分を占めるからだ。
自身が仕事が全然出来なくても、人付き合いがとても上手なら、周りの同僚をうまく使ってなんとか出来るかもしれない。
しかし、俺は出来なかった。
そのため、会社での俺の評価は使えないダメな男だった。


俺は、年齢を重ねていくうちに上司に叱責されることが増えていった。
俺の目の前には、怒りの形相をした上司、周りには冷笑を浮かべた同僚達という光景は、いつしか会社の名物となっていた。
先輩や同期の奴らだけではなく、後輩の連中までに馬鹿にされていた俺を、本当に心配し優しく接しってくれたのはオニババ…
冬子だけだった。


だいぶ昔のことなので、かなり記憶が美化されてるかもしれないが、当時の俺にとってまさに冬子は、ああっ女神さまっ…
そう、まるでベルダンディーのような存在だったのだ。
俺はほどなく、冬子と結婚した。
きっと冬子は、自分が一緒にいることで、俺が変わると信じていてくれたのだろう。


だが、俺のダメっぷりは、改善することはなかった。
そんな俺に冬子は、愛想をつかし、つらく当たってくるようになるのは、当然のことだったのかもしれない。
優しかった冬子を、オニババにしたのは、俺自身の責任だったのだ…
 
 
 
*** そして… ***

いくら俺がダメおやじでも、漫画の”ダメおやじ”…
天野ダメ助のように、オニババや子供たちから暴力を受けることは、一切無かった。
しかし、そのためか、天野ダメ助以上にオニババの暴言や態度、子供たちの影口や冷笑を浮かべた表情は、
俺の心身をズタズタにしていった。
それでも昔は、父親に対するその態度は何だ!と叱っていたが、気付いてみればもうそんな気力は、
これぽっちも残っちゃいない。


俺は現在40代だが、家庭と職場のストレスで、顔にはしわが無数に刻み込まれ、髪はほとんど抜け落ちてしまい、
残った髪も真っ白という外見。
加えて自信が持てず、何かに常に怯えている俺の状態は、天野ダメ助より酷いモノである。
自堕落に生きていた若い頃のツケが、今になって回ってきたのだろう。


それと、しつこいようだが、俺の給料は信じられないぐらい安い。
そのことは言うまでもなく、自分の小遣いに深刻なダメージを与えているのだ。
そのためアニメのDVDどころか、漫画すら買えないので、休日は家にいるのも嫌な俺は、
よく立ち読みができる古本屋に出かけることが多い。
そして、休日である今日も古本屋に来たのだが…
見つけてしまったのだ、ガキの頃に行った親戚の家にあって読んだ漫画、”ダメおやじ”を。
俺は複雑な思いをしながら、”ダメおやじ”を手にとって読み始めていく。


読んでいる途中で俺は、涙を流しているのに気付く。
親戚の家で読んだ時、俺は「なんだ、こいつ?俺はこんな情けねぇ大人には、絶対なんねぇよ!」
と、笑いながら思った。
もし、ガキの頃の俺が目の前にいたら、こんなことを言ってやるに違いない。
「おいおい、お前の未来の状態は、その天野ダメ助以上に悲惨だぞ。」と。
俺の虚ろいだ記憶では、天野ダメ助は途中、突然現れた大和ヒミコという女に出会うことにより、
どんどん幸せになっていくはずだった。
それ以降の展開が、今の俺にとってとてもきついモノなので、読むのを途中で止め、棚に戻した。


この世界には、突然現れドン底人生を歩んでいる俺を、幸せにするきっかけをくれる、
まるで<デウス・エクス・マキナ>のような女・大和ヒミコはいない。
そう、俺がいる世界は現実(リアル)なのだ。
だが、何より漫画の”ダメおやじ”と違うこと…
それは、天野ダメ助は、どんなに嫌なことでも、立ち向かって行く不屈の根性があるのに対し、
俺も今まで何とか頑張ってきたが、もう再起不能(リタイア)に限りなく近い状態で、
根性なんてこれぽっちも残っちゃいない点だろう。



生きていくことに、すっかりと疲れ果てた俺は、地図のコーナーに向かい、
そして棚にあった○ップルを手に取って開き、青木ヶ原樹海に行く方法を確認したのだ…


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

   その後…

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 



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◎○@※◎○@※. |□|.│ |┌┬┐ |::|┃ ウトノキフ┃|::| ┌┬┐| ::|. |□| ◎○@※◎○@※
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    ぽくぽくぽくぽく… ちーーーーーーん!








地獄変 1発目 リビング・ゴースト!?


あの〜おしゃぶりさん?
いつまでたっても、ぼたんちゃんが迎えに来てくれません。
俺、ぼたんちゃんに案内されるの、めっちゃ楽しみにしてたんですよ?
話が違います!
急いで、ぼたんちゃんを寄越して下さい!


ぼたんちゃんファンクラブ会員No.XXXX 魔の森より、ウツを込めて




*** 青木ヶ原樹海のどこか ***

   ぐぎゅるるる…

「…腹減ったなぁ・・・」
自分の腹が鳴る音を聞きながら、俺は呟く。
このパターン、何回目だ?


俺の名は、ウトノキフ。
あだ名は、ダメおやじ。
「ちきしょーー! なぜ死んだのに、腹が減るんだ!?」
そう俺は、自分の未来に絶望し、この樹海で首を吊り死んだのだ。
その証拠に俺の目の前には、風に揺られ、左右にぶらぶらしている、俺の氏体…
いや、死体がある…



  ,___,、__
  '' ;;;;;;;;;_( (ー'
  一‐' ̄ ||
      ◎||          
       ||
     (||| Д )   
      )==(    
   /∫~    ~∫ヽ  
   | ミ      ミ| | 
   | ミ      ミ| |   
   | ミ      ミ| | 
    ミ      ミ| |       
   | |ヽ___ノ | |
   jjjjj ..|  O      
      ノ ̄ ̄ ̄ヽ
  彡  |  ∧  |   彡
     |  || . | 
プラーン… プラーン…




もう死後かなりたち、俺の死体には、そこら中に無数のウジが湧いている。
それだけではない。
目玉はカラスにつつかれ、腐りきった両足は野良犬に食いつかれてしまったので、無くなっている。

「…樹海では、きれいに死ねません、か…」
俺はふと樹海の入り口付近にあった看板の内容を思い出す。
だが、自分の酷いありさまの死体を、これでもかと見せつけられ、自分が死んでいることを認識しているにもかかわらず…

       ぐぎゅるるる…

俺はとてつもないほどの、空腹を感じているのだ。


「…かゆ…うま…た、たまんねえ!」
我慢できなくなった俺は、自分の腐乱死体を食うことにした。
運が悪い俺は、キノコすら見つけることが出来なかったのだ。
この行為が、どんなにやばくても ”食うな と言われても 腹はへる” 言えることなど 何もないのだ… 
俺の”見えない胃袋”は、絶えず空腹を訴えている。
「うっ、うっ、うっ、なぜ、俺がこんな猟奇的なことをせにゃならんのだ! …げっ!?」
理性が空腹感に勝てず、まるでゾンビやグールのようにふらふらと自分の腐乱死体に近づいた俺に、襲いかかったモノがあった。
それは、死体が放つ酷い悪臭だった。
そう、俺には嗅覚も残っているのだ。
「ち、ちきしょーーー! あ、あれ!?」
それでも悪臭を我慢し、自分の腐乱死体の腕を噛み付こうとした俺は、すり抜けてしまう。
頭の中が空腹感で一杯だった俺は、モノをすり抜けてしまうことを失念していたのだ。
「う、うげぇぇええーー!」
死体を食うことが出来なかった俺に、悪臭の次に吐き気が襲った。


「…オニババや子供たち、どうしてるかな…」
食うことを断念した俺の頭に、残してきた家族のことが浮かんだ。
「…よし、こんな気味悪い森を出て、あいつらの様子を見に逝こう!」


俺は家族に会うために、この魔の森から脱出することを決意したのだ…




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