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          ジャンク(ローゼン・メイデン)







 近代設備が整った病院の敷地に似合わない廃墟と化した教会。
 そこを訪れるモノは滅多にいない。
 しかし……




     最初から、ジャンクの子なんていないの……
     どんな子にも、アリスにふさわしい輝きを持っている…




     でも、あなたは来てくれたわ……





 教会内部の十字架の前に、翼を持つ天使のような、そして意思を持つ人形がいた。
 しかし、その翼は漆黒。
 そして、その人形は”妹たち”以上に”お父さま”を愛しているにも関わらず、創造された時からすでにジャンクだったのだ。






「こんばんわ、天使さん」
「……ここには、来るなって言ったでしょう?」
「眠れなピロロロロ〜  ピロロロロ〜  









 今日、仕事がオフであり、『アメリ』以上にはまってしまったローゼン・メイデンのDVDを見ていた男は、携帯の呼び出し音に眉をひそめる。
「……まだ、始まったばかりなのに……あ、お母さんからのメールだ」
 男は、慌ててテレビを止め、ポケットから携帯を取り出し、相手を確認した。
 どうやら、男の母親からのメールのようだ。




      崇くん しっかり食べてるかえ?
      送ったナス 美味かったやろ〜
      ところで…… 山田太郎くんのこと 憶えているけ?
      ほら 崇くんと中学まで一緒だった 太郎くんよ 
      その太郎くんなんやけどな えらいことになってんよ 
      なんでも 消費者金融から ぎょうさんお金を借りたせいで
      怖い人たちが 取立てに来て そのせいで 太郎くんたち夜逃げしちゃたんよ!
      まあ 崇くんはしっかり者だから 心配しとらんけどね〜
      じゃあ たまには帰ってくるように……
                                       母より




 携帯の画面を見ながら、男はそっとつぶやく。
「……ごめんよ、お母さん……」
 男の名は、根岸崇一。
 売れっ子メタリスト、クラウザーさんの真の姿である。

「……いくらなんでも、買い過ぎだよな……」
 根岸は、携帯をしまいながら、自分の部屋を見渡した。
 数週間前のことである。
 DMCメンバーのカミュこと西田が、弁当と一緒に『ローゼン・メイデン』のコミックを買ってきて、そのまま楽屋に忘れていった。
 そして、たまたま、それを見つけた根岸は、どんなマンガなのか興味が湧き、めくってしまいはまってしまったのだ。
 その後、すっかりローゼン・メイデンの虜になってしまい、漫画やDVDやその他もろもろのモノを買い漁っていく根岸。

 そのため根岸の部屋は、壁一面や天井は、大好きなアーティストの代わりにローゼンメイデンのポスターでいっぱい。
 机や棚の上は、ローゼンメイデンのグッズやフィギアでいっぱい。
 テレビ台の下やCDラックは、アメリやカヒミカリィを押しのけ、ローゼンメイデンのDVDやアニソン、ドラマ、声優CDなどでいっぱい。
 ベッドの上は、ローゼンメイデンのぬいぐるみや抱き枕でいっぱい。
 ━━という凄まじいありさまなのだ。
 使った金も、当然多い。
 だが、
「あのセットが、とてつもなく高かったんだよな……」
 根岸が、目を向けた先に置いてある8個のトランク。
 それらに比べれば、ささいな金額だっただろう。


 トランクは、もちろんただのトランクではなく、ローゼン・メイデンの劇中で使用されている物と同じ外見、同じ寸法の物であり、それぞれ、水銀燈、金糸雀、翠星石、蒼星石、真紅、雛苺、薔薇水晶、そして……雪華綺晶が入っている特注のものだ。
 入っているドールは、一流の人形師が製作したので、どの人形の出来栄えは素晴らしく、まるで生きているかのようである。
 当然その人形セットは、ものすごく高い。
「いくら出来が良いからって、600万円以上もするなんて……」
 しかし、ローゼン・メイデンに魅せられた根岸は買ってしまった。 
 ギャラや貯金を全部合わせても足りなかったので、○イフルをはじめとした、様々な消費者金融から金を借りるはめになってまで。
 今まで真面目に(?)生きてきた根岸とって無縁だった借金という事実が、根岸の胃を痛くした。
 だが、それだけではない。
「僕が、消費者金融から借金しただけじゃなく、あんな過ちを犯そうになったって、お母さんが知ったら悲しむだろうな……」
 そう、根岸は、ドールがあまりにも出来が良かったので、○イプしそうになってしまったのだ。



「……後悔してもしょうがないか。 DVDの続きを……あ、そうだ♪」
 根岸は、立ち上がると、紅茶を淹れるために台所に向かった。
 そして、”聖少女領域”を歌いながら、手早く紅茶の準備をしていく。
「せっかくだから、真紅と紅茶を飲みながら見よ〜♪」
 紅茶の盆を手に取り、部屋に向かう根岸。
 すると━━



      ドン! ドン!!

 突然、玄関のドアが乱暴に叩かれた。
「誰だろう? こんな時間に……」
 時計を見ると、もう10時。
 隣に住むシゲおじさんに迷惑をかけてしまうと思った根岸は、とりあえず盆を置きドアを開けに行く。



 居留守を使っていれば、悲劇は起こらなかったということを知らずに……






「はいはい、今開けますよ〜! ……え!?」
 ドアを開けるとそこに立っていたのは、社長のメタル仲間のグリとグラだった。
 根岸は予想外の訪問者たちに驚く。
「あ、あの〜何かご用ですかって、ちょっと!? うっ、お酒臭い!」
 根岸は恐る恐る話しかけた。
 しかし、二人は、根岸の質問に何も答えず、ズカズカと土足のままで室内に入っていく。
 それを制止しようとした根岸の鼻に、強烈な酒の臭いが直撃した。



 結局、酔っ払っているためか、根岸が何を言っても、二人には言葉が通じず、帰ってくれなかったので、根岸はしょうがなく自分の部屋に通した。
 そして、二人の酔いを醒ますために、水を取りに台所に向かい部屋に戻ったのだが……
「水持ってきましたよ……!?」
 その時、自分の部屋で起こった惨劇を、根岸はきっと忘れないだろう……




 翌朝、グリとグラは酔いが醒めたらしく、何事もなかったのように帰っていった。
 そして、ひとりぼっちになった根岸は自分の部屋を見渡す……



根岸が大好きなローゼン・メイデンのぬいぐるみや抱き枕がいっぱいだったベット……
酔っぱらいたちの大量のゲロがぶちまかれています。



ローゼン・メイデンのポスターだらけの壁や天井はどうでしょう……
酔っぱらいたちに投げられたDVDやCDが突き刺さっています。



根岸が愛用していたテレビやDVDプレイヤーはどうでしょう……
アメリに代わりローゼンメイデンを観る事くらいしか出来なかったハズが、バカ力を誇る酔っぱらいたちにぶん投げられ、部屋の薄い壁を突き破り、隣に住むシゲおじちゃんの頭に直撃しています。
親切な隣人を失った悲しみは、根岸に深い悲しみと絶望を与えてくれるでしょう。



そして、とても高価なドールたちはというと……
酔っぱらいたちに、ローザ・ミスティカ(処女)を奪われたあげく、バラバラに壊されてしまい、全て”ジャンク”になっています。
さらに、バラバラになった人形たちの頭や手足に、この部屋まで飛び散ってきたシゲおじちゃんの大量の血がコラボレーションすることにより、猟奇的な空間を醸し出してくれることでしょう。





DMC辞典【ジャンク】
 がらくた。
 最初からジャンクであるビッチ・ドールが、自分のことを棚に上げよく使用する。

【使用例】
 ったくよ〜。
 ジャンクのくせして、水銀燈はアソコのしまりがいいぜ!
 ……ウッ! イッちまいそうだ!!



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