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    Arcadiaさんに、別HNで投稿していました。
    (タイトルを変更しました。)


          召喚士マリアな日々  最恐編




 東西南北に風水火土、そして天と地に聖と魔のエレメントの門がある世界。
 人、動物、植物、そして各エレメントに属する多種多様なモンスターがはびこる世界。
 それらモンスターの”真の名”をつかむことにより、自在に召喚し、使役する者たちがいる世界。 
 その世界を、ヒトは六門世界と呼ぶ。
 


 六門世界の中心にある大都市サザン。
 古くから六門世界の中心地として栄えたこの街には、王城、大聖堂、そして貴族たちの屋敷など立派な建物が多く立ち並ぶ。
 だが、それらの中でも一際目立つ建物があった。
 世界中から、魔法や召喚術、科学など様々の分野で活躍することを望む学生が集う学び舎、<大学院>”アカデミア”である。

 そのアカデミアの中庭にある池の畔で、50歳前後の男が、魚の餌を撒いていた。
「良い天気じゃの〜」
 男は手を止め、空を見上げ、早朝の清々しい空気を思いっきり吸い込んだ。
 そして、池を泳ぐ大きな魚に語りかけるように話しかける。
「のう、カトリーヌ」 
 カトリーヌと呼ばれた魚は、大きくはねた。
 その姿に、男の顔がほころぶ。
 カトリーヌは、ドラゴン・フィッシュという魚であり、名前に似合わない華麗な模様をしている。
 そのカトリーヌを、男は我が子のように可愛がっていた。
「おお〜見たか、グレース? カトリーヌは、今日も元気じゃ」
 池から少し離れた場所に植えられているピンク色の花を咲かせているピンク・チェリーという木に男は視線を移す。

 ドラゴン・フィッシュのカトリーヌ、ピンク・チェリーのグレースを心から愛する男の名は、ゼンジィ・オーヌキ。
 ここアカデミアに勤める用務員である。






 早朝、サザンのスラムにほど近い場所にある聖都防衛隊の宿舎から、一人の少女が扉を開け姿を現した。
 少女の名は、マリア・チェトケル。
 召喚士であり、ここサザンを護る特務隊士の一人である。
 ……が、今日は、特殊任務につく日にあたるため、いつもの隊の制服ではなく、アカデミアの制服に身を包んでいた。 
「う〜ん、良い天気ね」
 マリアは大きくのびをした。
 二つに分けた黒髪が揺れる。 
 マリアは、よく晴れた空を見上げ、もう一度のびをしようとするが、
『おまえの頭は、いつものーてんきだけどな』
 突然、マリアの体から男が出てきた。
 その男は正に絶世の美男子。
 紅い長髪、スラリとした長身に甘いマスク。
 しかし、奇異なことに頭には角、背中には黒い翼を生やしている。
 だが、そんな目立つ姿をしているにもかかわらず、街行く人々は誰もマリアたちを見向きもしない。
(うるさいわよ!)
 マリアは、自分の体から飛び出してきた男、フレイムに心の中で怒鳴りつけた。
『なんだよ、ホントのこと言ってやっただけだろ』
 明らかに人間ではない男は、マリアの頭上に飛び上がると偉そうに腕を組み、マリアを見下ろした。
(ちょっと、フレイム! 誰かに見られたら……)
『ハァ〜? 今の状態の俺様を見れる奴なんて、滅多にいないっての』
 辺りをキョロキョロと見回すマリア。
 フレイムは、堕天使である。
 かつて、とある事情により肉体を失い、人間であるマリアと融合してしまったのだ。 
 しかし、マリアの体力を消費させることにより、幽霊のようになることもできれば、さらには実体化することもできる。  
 今の状態は、前者であり、周囲の人々がフレイムの姿を見ることはできない。
 だが、例外があり、人外だがマリア以外に見える少女がいたり、勘の鋭い若者に気配を察知されたことがあったりする。
 また、ここサザンは、”聖”の存在を尊ぶエルド教の総本山、教皇庁があり、やむえぬ事情があったにせよ”魔”に属する堕天使と融合したと知られたら、どんな目に遭うかなど容易く想像できるであろう。
 なので、フレイムが自分から勝手に飛び出す度に、不安を覚えるマリア。

(まったく……。 あ、ところでフレイム。 このメガネって何よ?)
 マリアは、鞄から奇妙な形をしたメガネを取り出し、くるくると回しながらフレイムに見せた。
 あまりにもメガネを粗雑に扱うので、フレイムはマリアに怒鳴りつける。
『おい! おまえなんかより、はるかにデリケートな品物なんだぞ! 丁寧に扱えよな!』
 フレイムは、実体化しないと物をつかめない。
 だが、実体化は今の状態以上にマリアの体力を消費させるため、長期間できないのだ。
 なので、昨晩のうちにマリアの鞄の中に忍ばせておいたのである。
(はいはい。 で、なんなのよ?)
『ふふふ……。 聞いて驚け! それはな、どんな服でも透けて見えるメガネよ!』
 フレイムの返答に首をかしげるマリア。
(……はい?)
『そのメガネで愛しのコリン先生を……。 ハァハァ……、た、たまらん!』
 顔を赤くし、熱い息を吐きながら空中で身をよじる堕天使。
(……うわあああ……)
 魂まで共有しているマリアの頭の中に、自分の担任である天才少年のあられもない姿が流れ込む。
 そう、フレイムは美少年が大好きな変態なのである。
 堕天使の卑猥な想像は、マリアの精神に多大なダメージを与えるのには十分であった。
 頭を振りながら、勘弁してよねと思うマリア。

 そんなやりとりをしているうちに、マリアたちは、アカデミアに到着した。 
「さあ、今日も頑張って勉強するわよ!」 
『いつも居眠りしそうになるくせにか?』
「う、うるさい! ……あ」
 頭上にいるフレイムに向かって、思わず怒鳴りつけてしまったマリア。
 周囲を見渡すと、フレイムの姿を見ることが出来ない他の生徒たちが、自分を見ているのに気付く。
『バーカ』
(ううう……)
 マリアは、慌ててその場から逃げるように学舎に駆け込んだのであった。






 がっくりと、肩を落としながら廊下を歩くマリア。
 実は、彼女は特務隊に所属しているが、入隊する前にアカデミアの入試に失敗していた。
 それが、任務とはいえ憧れのアカデミアで学べるようになったのだ。
 なので、他の生徒たちの目の前で、先ほどのような失態は、絶対にしたくなかったのである。
(トホホホ……朝からついてないなあ。 みんなから変だと思われたらどうしよう)
『もうすでに思われてるから、心配する必要はないんじゃねえか?』
 落ち込んでいるマリアに、フレイムは容赦なく追い討ちをかける。
『だいたい、おまえは……ん? うほっ!』
(ちょ、ちょっと、フレイム!? どこに行くのよ!)
 突然、フレイムは窓をすり抜け飛んでいってしまった。
 堕天使を止める暇も無く、ただ目の前の壁を見ているマリア。
「おや、チェトケルさん。 元気がないようじゃが、どうしたんじゃ?」
 そんなとき、後ろから声がかけられた。
 振り返ると、用務員室と書かれた札付きのドアのそばに一人の男が立っている。
 年季の入った作業衣に、温厚そうな顔つき。
 アカデミアの用務員、ゼンジィ・オーヌキだった。
「あ、おはようございます、オーヌキさん。 いや〜夜更かししちゃって」
 マリアは、あわてて笑顔であいさつし、落ち込んでいたことをごまかす。
 そんな彼女の様子を見て、オーヌキは笑った。
「ははは、勉強も結構じゃが、健康にも気をつかいないとのう」
「え、ええ……ははは」
 オーヌキにつられて、笑い出すマリア。
 そのとき、笑うマリアの視線が、オーヌキが持っているものに移る。
「と、ところで、オーヌキさんが持っているものってなんですか?」
 それは、丸みをおびた箱状のものに取っ手と刃が付いていた。
 また、よく見れば刃には、ギザギザの歯がついているのがわかる。
 外見だけでも、変な形をしている物体。
 だが、なによりも目についたのは、男の生首を模った箱状のものだったのだ。
「ああ、これは、この建物の倉庫に転がっておったものなんじゃ」
 マリアの質問に、それをマリアの目線の高さまで持ち上げ答えるオーヌキ。
 不気味な顔と温厚そうな笑顔を同時に見せられたマリアは、思わず一歩引く。
「これから柵を作ろうと思っての。 のこぎりなんかより、ずっと楽に木材を切れるんじゃよ」
 そんなマリアの様子に気が付かないオーヌキは、説明を続ける。
「そ、そうなんですか」
 マリアが、引き攣った笑顔をつくった直後、授業の開始をつげる鈴が鳴り響く。
「いけない、授業が始まっちゃう!」 
「頑張るんじゃぞ〜」
 慌てて去っていくマリアに、オーヌキはエールを送った。






 その日、マリアのクラスの最初の授業は、召喚の実技テストだった。
 そのため、いつもの教室ではなく、試験場である広い中庭に集められた学生たち。
 試験は、どうやら実技担当の教師の前で、ひとりずつ召喚獣を召喚していく内容らしい。
 学生たちに、順番が書かれた紙が渡されていく。
 マリアに渡された紙には、19と書かれていた。
「ずいぶん後だなあ……」
(おい、マリア)
 フレイムの声を聞き、周りを見渡すマリア。
 すると、中庭の隅にある茂みのそばで、フレイムが自分を手招きをしていたのだ。
(フレイム、どこいってたのよ)
 マリアは、他の学生たちに気付かれないようにフレイムの所まで走り訊ねた。
『いや〜、初等部の美少年たちが、朝錬でランニングしててよ! 眼福、眼福♪」
(……あ、そう)
 フレイムの発言に、マリアは、ため息をつきながら流す。
「お、そうだ。 マリア、あのメガネをよこせ」
「疲れるんだから、あんまり長く実体化しないでよね」
 マリアは、ぶつぶつと文句を言いながらメガネを取り出した。
 彼女から差し出されたメガネを受け取りながら、実体化したフレイムも文句を言う。
「そう思ってんなら、さっさとしろよな」
 言い返され、むっとなるマリア。
 しかし、角と翼を隠し、変装のために研究者用の白衣を着込んだ超美形の堕天使を、間近で見たマリアの言葉はつまる。
 だが、変態堕天使のセリフは、その人間離れした美しさをぶち壊す。
「よっしゃ! コリン先生の裸体、とくと目に焼き付けてくるぜ!」
 意気揚々と校舎に向かって駆けていくフレイム。
 マリアは、その後姿を見ながら、うんざりとなった。
 そんなとき、マリアを呼ぶ声が、彼女の耳に入る。
「チェトケルさん、どこですか?」
 声は、実技担当の教師のものだった。
「あ、はーーーい! 今、行きます!」
 どうやら、マリアの番がまわってきたようだ。



 マリアが急いで戻ると、そこには様々なモンスターが召喚されていた。
 しかし、いくらアカデミアで学んでいるとはいえ、しょせんは学生レベル。
 どれも小型であり、低レベルのモンスターばかりである。
 それを見たマリアは、最初ちっちゃな炎の精霊、サラマンダーのバーニィを呼び出そうとしていたが、別のモンスターを召喚することにした。
 任務のためにアカデミアに入学したものの、田舎者と揶揄されているマリアにとってチャンスである。
 強大なモンスターを呼びだせば、他の学生たちがマリアを見る目は、きっと変わるに違いないのだから。
「来て、ガオ!」
 魔方陣から、マリアの呼びかけに応じたモノが飛び出す。
 それは、一見すると、大きな黒い虎のように見える。
 だが、ただの虎ではないことを証明するがごとく背中から生えた二本の触手が蠢く。
 <魔>に属する上級のモンスター、ファントム・ビーストのガオだ。
 ガオは強力な魔獣であったが、知能が高く、凶暴そうな外見とは裏腹にマリアによくなついている。
 彼女の思ったとおりであった。
 周りの学生たちは、黒き魔獣を見て驚きの表情を浮かべている。
 しかし、召喚したガオを見て、謝るマリア。
「ご、ごめんね、ガオ」
 よく見れば、ガオの口のまわりには、餌がこびりついていた。
 どうやら、食事の最中に召喚されてしまったようだ。
 そのためか、少し機嫌が悪いようで、大好きなマリアからぷいっと顔をそらし、そのまま彼女から離れていく。
「ガオ! どこに行くの!?」
 マリアの制止する声を無視し、ガオは彼女たちがいる場所から100mほど離れた池まで一気に駆けた。
 そして、その勢いのまま池に飛び込む。
 盛大な水しぶきを上げながら泳ぐ魔獣。
 だが、やっと池のそばにまでやって来たマリアは、単に泳いでいただけではないことを理解する。
「ダ、ダメじゃない! 池の魚食べちゃたら!」
 ガオに食いつかれた鮮やかな模様の大きな魚から流れ出る血で、池は赤く染まっていたのだ。
 それを見たマリアは、慌てて大声を上げた。
 しかし、たまたま中庭を通り抜けようとした一人の男が、それ以上に大きな絶叫を上げる。
「カ、カトリーヌーーーーッ!?」
 あまりにも、大きな絶叫にマリアやガオ、そして教師や他の生徒たちまで男のほうに目を向ける。
 男は、ガオが食らいついている魚、カトリーヌを誰よりもこよなく愛する用務員、オーヌキだった。
 そのオーヌキを見て、ギョッとなるマリア。
 なぜならば、朝見たあの不気味なモノを振りかざし、まるで鬼のような形相で、こちらに向かってきたからである。
「よくも、カトリーヌを! この泥棒猫め! 成敗してくれるわッ!」
 オーヌキの怒声に、強力な魔獣であるはずのガオが、まるで子猫のように怯む。
 そして、オーヌキが放つプレッシャーに負け、逃げ出すガオ。
 魚を咥えたドラ猫ならぬガオを追いかけまわすオーヌキ。
 悲鳴を上げながら、散り散りに逃げ惑う教師や学生たち。
 その騒動の中、マリアは、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
 





 逃げる魔獣、それを追う怒れる用務員。
 大騒動に包まれた中庭。
 そこで呆然と見ていることしかできないマリアは、目の前で繰り広げられるガオとオーヌキの鬼ごっこにさらに驚く。
「ウソ!? ガオについていけるなんて、なんて脚力なの!?」
 ガオとオーヌキの足の速さは、ほぼ互角だったのだ。
 マスターであるマリアは、ガオのとてつもない足の速さをよく知っている。
 そのガオに、息を一つも切らせずに追いかけていくオーヌキに戦慄を覚えるマリア。
 そして、その人間離れしている存在に追いかけられているガオ自身も、彼女以上に戦慄を覚えたに違いない。
「ちょ、ちょと、ガオ!?」
 戸惑うマリアの目の前で、急にガオは止まる。
 すると、マリアの足元に、食べかけの魚の死骸を口から放し、そのまま屋根を飛び越え逃げてしまった。
「おのれ……! キサマの猫じゃったのか!!」
 そして、怒れるオーヌキのターゲットは、ガオからマリアへと変わる。
「はい〜っ!?」
 パニックを起こし、まともに喋ることが出来ないマリア。
 今度は、彼女が追いかけられる番だった。



 異形のモノを振りかざし、女生徒を執拗に用務員は追いかけまわす。
 そのため、恐怖の場と化した中庭に誰も出ようとしない。 
 だが、そんなことが起きていることを知らない赤い長髪の美形が、建物から中庭に出てきた。
「コリン先生がいないなんてついてねえな……」
 マリアの担任である美少年の裸体を拝みに向かったフレイムだった。
 しかし、コリン先生は風邪をひいたらしく、休みだったのだ。
 そのため、がっくりと肩を落としながらマリアの元に向かうフレイム。
 そんなとき、宿主である少女が、全力疾走で彼の目の前を通り過ぎる。
「ん? おい、マリア!」 
 フレイムは、マリアに呼びかけたが、少女の足は止まることはなかった。
「あいつ、なんであんなに必死に走ってんだ?」
 首をかしげる堕天使。
 そのとき、マリアを追うオーヌキが、自分の進路上に現れたフレイムを突き飛ばす。
「邪魔じゃぁぁーーッ! どけいッ!!」
「うお!?」
 バランスを崩したフレイムの手から、メガネが落ちる。
 そして、パリンという乾いた音を立てて割れてしまった。
「お、俺のメガネが!? コリン先生の裸をまだ拝んじゃいねえのに!」
 地面に落ちた大切なメガネから目を離し、オーヌキを睨み付けるフレイム。
 その顔には、はっきりとわかるほど憎悪の表情が浮かべられていた。 
「この、クソジジイ! 燃え尽きなッ!」
 堕天使は、恐るべきスピードで呪文を紡ぎ、怒号とともに巨大な火球を用務員に向かって放つ。
「ぬう!? なんじゃ!?」
 自分に向かってくる火球に気付き、オーヌキは振り返った。
 堕天使の圧倒的な魔力が込められた<火>属性の魔法、爆烈焼球インテリペリ。
 そんなものをまともにくらえば、人間のオーヌキなど骨をも残さず燃え尽きてしまうだろう。
 だが、用務員は常識、いや、人間を超えていた。
「喝ッ!」
 あまりにも大きな声に、建物や木々がビリビリと震える。
 そして、声は巨大な火球に直撃し、消し去ってしまった。
 なんと、オーヌキは、気合を込めた大声で、堕天使の魔法を完全に防いでしまったのである。
「な、なんだと!?」
 必殺であるはずの魔法を声のみで防がれたため、フレイムは目を見開いた。
 そして、驚く堕天使に、マリアを追うのをやめたオーヌキが迫る。
「そこの若造ッ! 学園内では、授業以外での魔法の使用は校則で禁止されておるということを、知らぬわけではあるまい!」
 オーヌキが持っている不気味な物の刃についているギザギザの歯が、音を立てて高速で走り出す。
 マリアは、思わず耳をふさぐ。
 その音が、まるで人の断末魔のようだったからである。
(ありゃ、血怨葬(ちえんそう)じゃねえか!)
(し、知っているの、フレイム!?)
 耳をふさぐマリアの頭の中に、フレイムの念話が入り込む。
 どうやら、オーヌキが持つあの不気味な物を知っているらしい。
(古代帝国期に、魔界からやって来たジェイソンっていう魔人が使用していた武器だ! あれはな、持っている奴の怒りや憎悪を増幅し、狂人に……)
 マリアの問に答えていたフレイムの念話が、途中で切れてしまう。
 堕天使がいる方に視線を移す。
 彼女は慌てて、あの不気味で耳障りな音がする方に視線をうつす。
 すると、ピンク色の花を咲かせた巨木のそばで、用務員から襲撃を受けている堕天使の姿があった。



「そこになおれ! 修正してくれるわッ!」 
 オーヌキは、雄叫びを上げながら、フレイムにめがけて凶器を振るった。
「あ、あぶねえ!」
 オーヌキが繰り出す凶器の鋭い一撃を、なんとかかわしたフレイム。
 直撃していれば、たとえ強靭な肉体を誇る堕天使とはいえ、ただではすまなかったであろう。
 事実、標的を逃がした凶器は、フレイムのそばに植えられていた巨木を容易く切り倒してしまったのだから。
「おのれ、ちょこまかっと……グ、グレースゥゥゥウウウッ!?」
 ピンク色の花を撒き散らし、轟音をたてて倒れた木を見て、オーヌキは再び絶叫をあげた。
「若造、貴様はワシの……ッ! ぬぅぅううう、許さん、許さんぞ! 愛しい木をよくもぉぉぉおおお!!」
「……切り倒したのは、テメエ自身だろうが……」
 さらにヒートアップしたオーヌキに、心底呆れるフレイム。
「問答無用じゃ! 死ねよやーーーッ!!」
「くッ!? こ、こいつ!?」
 オーヌキの奇声をともなう攻撃をを、実体化させた剣で受け止めたフレイム。
 いくら、本来の力を発揮できないとはいえ、フレイムは魔王級のモンスターに匹敵するといわれる力を持つ堕天使である。
 ただの人間にすぎないオーヌキが、かなうはずがない。
 しかし、連続で繰り出される一撃は、あまりにも早く重かった。
 そのため、フレイムは防ぐのがやっとであり、自分が追い込まれているという想定外の展開に焦りを生じる。
「マリア! ”武装”させろ!」
 オーヌキを、強敵だと認識したフレイム。
 マリアの方に向かってフレイムは、己の真の力を解放させるべく叫ぶ。
 だが、オーヌキ相手にそれはうかつだった。
「うつけが! よそ見をしおってからに!」
 フレイムの首めがけて、凶器がなぎ払われた。
「フ、フレイム!?」
 悲鳴を上げるマリア。
 しかし、肉体が切り裂かれる音や断末魔が聞こえてくることはなかった。
「ぬぅ!? 面妖な!?」
 キョロキョロと辺りを見渡すオーヌキ。
 なぜならば、手ごたえを感じないどころか、フレイムの姿が消えていたからである。
 どうやら、フレイムは実体化を解き、逃げたようだ。
 そのことを理解したマリアは、ほっと胸をなでおろす。
 だが、そんな場合ではないということを、再び自分に向かってくるオーヌキを見て、彼女はようやくあることに気付く。
「カトリーヌ……。 グレース……。 の! ウラミハラセデオクベキカァァァアアアアッ!!」
「な、なんで私がこんなめにーーーッ!?」
 ガオ、そしてフレイムが逃げ出してしまった今、オーヌキのターゲットは、この場に自分しかいないということに。






 半べそをかきながら、必死に逃げるへっぽこ召喚士。
 伝説の凶器、血怨葬(ちえんそう)を振り回しながら、彼女を執拗に追いかける狂人と化した用務員。
 その2人を空から見ながら、フレイムはつぶやく。
「オレをあそこまで追い詰めるとは……。 用務員じゃなく、別の人生を歩んでいれば、史上最凶のバーサーカーとして名を残してたんじゃねえか?」
 <魔>に属するモノたちの中で、最強レベルに位置する堕天使に、そう言わしめた男の名は、ゼンジィ・オーヌキ。
 アカデミア、いや、六門世界最恐の用務員である。








            ∧_∧    挿絵担当の人つながりということで、  
     ∧_∧  (´<_`;) 「フルメタル・パニック!」の大貫善治を登場させたんだが、 
     ( ´_ゝ`) /   ⌒i    どうだった?  
    /   \     | |  
    /    / ̄ ̄ ̄ ̄/ |    
  __(__ニつ/  Dell  / .| .|__ やはり、オチがすぐ解ってしまったんじゃないか? 
      \/____/ (u ⊃



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