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7/3/15 第1話
以前書いたのを書き直し、Arcadiaさんに【守護天使】という別タイトル及び別HNで投稿していました。
SUMMON
NIGHT
第1話 ”真の名”は━━
あるところに、『不幸だけ与えられた人間』というモノに選ばれてしまった、なんともアンラッキーな男がいた。
そのせいか、男は、どんな仕事に就いても上手くいかず、ついにはスリで日銭を稼ぐまでに身を落とす。
まさに人生崖っぷち!
しかし、仏さま、いや、神さまは男を見捨てていなかったようだ。
男のために、あらゆる不幸を防ぐ天使を地上世界に受肉させ、派遣してあげたのだから。
これで、不幸な目ばかり遭っていた悲惨な男の運は、一気に上がるのは確実!
だが、それだけではない。
神さまは、さらにオマケをつけてくれたようだ。
その天使は、とてつもなく美人な上、最上級の力を持つ天使、熾天使(セラフィム)だったのである。
ところが、生来かなりの女好きな男は、こともあろうか、自分を守護してくれるありがたい天使に襲いかかり、子供を孕ませてしまう。
そして、天使は4か月というありえない早さで子供を出産した。
人間と熾天使の間に産まれた奇跡の子供。
その子供の”真の名”は━━
大村猛は、そっと目を開ける。
(ハァ〜)
薄暗い部屋に立っていた猛は、自分の周囲を見渡し、ため息をつく。
まず、右を見れば、今時珍しい大きな瓶(かめ)があり、それと同じものが、いくつも壁際に置かれている。
また、反対側を見れば、なにやらガラクタのようなモノが積み上げられていた。
しかし、部屋は広く、狭いとは感じない。
また、壁や床、天井までもが石で出来ており、天井付近には小さな窓があって、そこから光が差し込んでいた。
どうやら地下室のようだ。
やれやれと、首を振る猛は、ドアの方に視線を移す。
すると、ドアが静かに開き、少女が部屋に入ってきた。
(やっぱりな……)
入ってきた少女を見ながら、猛は眉をひそめた。
彼は、少女が来るのがわかっていたのだ。
また、他人の家にいるというのに慌てる様子もない猛。
なぜならば、目の前の少女には、猛の姿が見えていないのである。
だが、別に彼が透明人間になってしまったというわけではない。
(なんなんだよ、この夢?)
自分の姿が、少女に見えていないのは夢だから。
少女が入ってくるのが事前にわかったのは、何度も見ている夢だから。
そう、自分が立っている場所、そして少女は、全て猛の夢の産物なのだ。
それも、とてもリアルな上に、何度も繰り返して見る夢。
(誰なんだろう?)
夢を見るたびに、猛はそう思った。
少女は、歳のころは中学生である自分と同じくらいか少し下かどうか。
また、髪は黒いが、瞳の色と顔立ちからして、どうやら日本人ではないようだ。
そして、背があまり高くないが、将来きっと美人になるだろうと、そのへんに疎い猛にもわかるぐらい、とても可愛らしい顔をしている。
そのような少女であれば、きっと忘れるはずがないのだが、猛の記憶にはまったくない。
ただ、少女が着ている服には見覚えがあった。
服は黒く、袖やスカートは長めで肌がほとんど露出しておらず、十字架のようなモノを首からさげている。
そう、教会に勤める女性たち、つまりシスターが着る修道服にどことなく似ているのだ。
ここはどこなのか?
目の前の少女は誰なのか?
どうして、このような夢を見るのか?
しかも何度も。
腕を組み、いろいろと悩み始める猛。
だが、そんなことはお構いなしに、少女は筆のような物で床に何かを書き始めていく。
(これって……)
少女が書いていく円状の幾何学的なモノを見ている猛の頭に、あるモノが思い浮かぶ。
それは、漫画などでよく見る魔法陣だったのだ。
そして、書き終えた少女は立ち上がり、スカートの裾についた埃を払うと、目を閉じなにか唱え始める。
「φΔбЩπЛ!!」
(コイツ、やっぱり魔女なのかな?)
何を唱えているのかは、わからない。
ただ、なんとなく呪文のようであり、魔方陣の前でそれを唱える姿は、修道女というより魔女じゃないだろうかと猛に思わせた。
(なんで、コイツ、オレのことを呼ぶんだろう? ……ん?)
猛は、首をかしげた。
なぜならば、いつもなら夢はここで終わるはず。
それだけではない。
相変わらず、何を言っているのかはわからないが、自分を呼んでいるような気がしたのだ。
すると突然、
(な、なんだ、この光!? うわッ!?)
まばゆいばかりの光が猛を包み込む。
そして、彼の意識は徐々に薄れていった。
「猛さ〜ん! 朝ですよ〜!」
金髪の少女が、猛の部屋の扉を勢いよく開けた。
その少女の名は、大村エルといい猛の妹である。
歳相応以上のかわいらしさをもつが、その外見はとても兄妹とは呼べないほど、猛には似ていない。
「もう、休みだからってだらしないですよ! ……あ」
猛のベットに歩み寄るエルの目に留まるものがあった。
部屋の片隅に置かれていた彼のパジャマである。
「猛さん、また制服のままで寝たんですね? ちゃんと着替えないとダメですよ!」
最近、なぜか猛は疲れた疲れた言い、学校が終わるとすぐ帰宅し、さっさと食事をとりそのまま寝てしまうのだ。
真面目で几帳面なエルは、猛のベットに向かって注意した。
━━そんなふうに、ずぼらな猛と性格まで全然違うため、周囲の人間の中には、彼らが本当に血がつながっているのか疑う者も多い。
だが、複雑な事情があるものの、猛とエルはれっきとした兄妹であった。
エルは、ベットのすぐ脇にたち、ふとんを勢いよくめくる。
「いい加減起きてください、猛さん……あれ?」
空のベットに目を点にするエル。
そのとき、ようやく猛がベットに寝ていないのに気が付いたのだ。
「もう起きていたのかな?」
エルは、首をかしげながら、部屋を出て行く。
聡明な彼女も、さすがに猛が異世界に召喚されてしまったとは思わなかったようだ。
性は大村、名は猛。
そして……”真の名”は━━
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