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TIME DIVER  〜アポロンと呼ばれた男〜





      

 火星の極冠に残された遺跡。
 この遺跡には、あるシステムを制御するための運算ユニットが安置されている。
 そのシステムの名は、”ボソン・ジャンプ”。
 ”ジャンパー”と呼称される能力者の時空転移を制御するシステムだ。
 この驚異的なシステムを、どの”ナデシコ”という世界においても、不完全ではあるがモノにすることができた。
 しかし、 これが差異はあれど、他の数多の世界において、形や名を変え存在しているということを知っている者は、ほんのわずかのみ……。




 『火星・極冠遺跡』

 キューブ状の物体の前で、二人の男が対峙していた。
 一方の男は全身黒づくめ、もう一方の男は”この世界”には存在しない軍の軍服を着用している。

 全身黒づくめの男の名は、テンカワ・アキト。
 一部の権力者達のエゴのために、愛する妻と己自身の五感をほとんど奪われ、コックになる夢を絶たれてしまう。
 大切なものを全て奪われ絶望した男は、テロリスト”The prince of darkness”になった。

 軍服の男の名は、ギリアム・イェーガー。
 己が持つ未来を予知する能力により、世界の成り立ちを知ってしまう。
 そのことを絶望した男は、テロリスト”アポロン”になった。

 世に絶望し、多くの人々の命を奪った罪人達。
 この二人が対峙するのは、偶然的ではなく必然的だったのかもしれない。





「なぜ……、ここに”遺跡”があるんだ!?」
 とある事情で、アキトはほぼ失った五感を補助してくれたかけがえのない存在、ラピスを置いて、ある場所をイメージし、ボゾン・ジャンプを行なった。
 ところが、アキトが跳んだ先はイメージした場所と大きくかけ離れた場所、火星の極冠遺跡。
 そして、目の前には、自分の人生を狂わした物体”遺跡”があったのだから。
 イメージした場所と違う上に、”遺跡”がここにあることに非常に驚くアキト。
 なぜならば、”遺跡”は、融合させられた彼の妻、ユリカごと”火星の後継者”から取り戻し、ホシノ・ルリによりしかるべき処理をされたはずだからである。

「それは……、君が世界を越えてしまったからだろう」
「……ッ!? ……貴様、世界を越えたとはどういう意味だ!?」
 アキトは身構えた。
 見知らぬ長髪の若い男が、”遺跡”の物影から現れたからだ。
 己から何もかも奪った連中に復讐するために、五感をほとんど失ったアキトは、それこそ血を全て吐き尽くす様な過酷な訓練をし、様々な力を得た。
 中でも、気配を察知する力は高く、どのような些細な気配を見逃すことはない。
 だが、アキトに一寸の気配も感じさせず目の前の男は自分に声をかけてきたのだ。

「俺の名は、ギリアム・イェーガー。 そのことを説明するために、俺の話を聞いてもらいたい」
 警戒するアキトに対し、ギリアムと名乗った男は、唐突に己が辿ってきた人生を 語り始める。
 強引に聞かされる羽目になったアキトは聞いているうちに、
(こいつ、頭が逝ってるんじゃないだろうか)
 と、ギリアムに対して思っていく。 

 それは、仕方の無いことだった。
 ギリアムの半生は、あまりにも現実離れしていたのだから。
 彼は、過去に犯した罪により、数多の平行世界を巡ることが義務付けられたという。
 また、彼が訪れたどの平行世界にも、大規模かつ非常識な戦争があったらしい。

 その内容も、何十億もの人間が死滅させたコロニー落とし。
 遺伝子改良により産まれたコーディネイター、そしてそれを忌み嫌う人々との戦争。
 世界征服を目指す、改造人間やミュータントたちの秘密結社。
 恐竜が進化した人類や鬼、太陽の名を持つ国を滅ぼした妖魔、古代文明の遺産を発見した博士らが引き起こした、地上の覇権をめぐる戦争。
 ラ・ギアスやバイストンウェルやガイア、修羅界などと呼ばれる異世界。
 人類補完計画や世界の調律。
 全人類の改造を目論むメガノイドやゾンダー。
 地球を狙う数多の異星人たち。
 腐敗させる平和を忌み、永遠の闘争を目指すシャドウミラー。
 謎のアインスト。
 それに立ち向かう、様々なロボットとそれを操縦するパイロットや改造人間。
 そして……、強大な力を持ちながら、常に良き人類の味方となってくれた光の巨人たち。



「君も選ばれてしまったのかもしれない。ところで、俺の話を聞き、君はどう思った?」 
 話が終わったギリアムは、アキトに感想を求める。
 アキトは、ギリアムの話が終わった後、与太話だと思った話も信じる気になっていた。
「まるで、ゲキガンガーだな……。 いや、それ以上か」
 どうしてかは、わからない。
 しかし、ギリアムが持つ不思議な存在感からなのだろうか。
 警戒心が全く無くなり、アキトはかつて好きだったアニメをギリアムに述べた。

「……。 ところで、先ほど言ったように、俺は数多の世界を巡った。 そして分かったことがいくつかある。 どの世界の戦乱にも、さきほど君に話した要素が、差異はあれ必ずいくつか含んでいた。 そして、それらの要素が組み合わさり、戦乱が起こっていた」
「ラーメンみたいだな」
 アキトが言ったラーメンという言葉に、ギリアムが首をかしげる。
「……ラーメン?」
「ラーメンは、具やスープ、麺でいくらでも違うラーメンを作ることが出来るんだ」
 ギリアムの話を聞いたアキトがまず思い浮かべたモノ。
 それは味覚を失ったため、二度と作れないラーメンだったのだ。

「フッ、なるほど……。 では、かなりガンダムやマジンガー、ゲッターロボが入ったラーメンが好きとみえるな……」
「何だ、それは?」
 聞きなれない言葉に、今度はアキトが首をかしげる。
「気にしないでくれ。  まあいい。 こちらに来て欲しい。 君に見せたいモノがある」
 ギリアムは、アキトを”遺跡”のそばに手招きし、”遺跡”に書かれた文字を指差した。
「……なんて読むんだ?」
  その文字は、形象文字のようであり、アキトは読むことができず、ギリアムに尋ねた。
「”TERADA”だ」
 その文字は、”TERADA”と読むらしい。
 ギリアムが、巡った世界には、クロスゲート、システムXNなど、この”遺跡”に非常に似ているモノがあり、それらには、必ずこの”TERADA”と読む文字があったそうだ。
 だが、いくつもの平行世界を巡ったギリアムでさえ、”TERADA”が何の意味かは、まだ分からず、これが何を意味するか判明した時、自分の平行世界を巡る旅は終わるのだという。

 ギリアムの話が終わったその時、突然、遺跡が光始めギリアムを包み込んだ。
 そして、別れ際ギリアムはアキトに、”この世界”を含めた平行世界は作られたもの、”実験室のフラスコ”の世界だと言い残し消えていった。




  『テンカワ・アキト……あの男が、新たな”TIME DIVER”になるかどうかは、”TERADA”のみぞ知る……か』







ANOTHER TIME DIVER  〜黒い王子と呼ばれた男〜






 実験により、数多の世界を混ぜては裏から操り、混沌に染めていった組織がある。
 その悪の組織の名は、”グラサン”。、
 だが、その『グラサン』はついに叩き潰されることになる。
 怒れる1人の男によって……。



 『グラサン 施設内部』

 『グラサン』の最奥部には、堅牢で壁には巨大モニターが設置されている最高幹部の部屋がある。
 この部屋で、黒い特徴的なグラサンをかけた中年の男が、好物のカレーをほおばっていた。
 カレーを口の周りにこびり付かせた男の名は、TERADA。
 泣く子も黙るグラサンの最高幹部である。

 TERADAの今の最大の関心事は、大好物のカレー、そしてモニターの映像だった。
 モニターには、バイザーを着けた全身黒づくめの男が、TERADAと同じグラサンをかけた力士のような大男たちに囲まれている様子が映し出されている。
 全身黒づくめの男は侵入者であり、力士のような大男たちは、グラサンが誇る強化サイボーグ警備員部隊、”グレート雷門’s”であった。
 虎の子の警備員部隊に挽肉にされる侵入者の姿を思い浮かべ、TERADAはほくそ笑みながらカレーを口に運ぶ。
 ところが、すぐさま、TERADAの顔が青ざめていく。

 それは、正に電光石火だった。 
 包囲していたグレート雷門たちが、次々と無残にも倒されてしまったのだ。
 そして、最後の一体も、全身黒づくめの男にナイフで首を切られ、断末魔を上げた。
 その様子をモニターで見ていたTERADAは、
「ぜ、全滅!? 我が”グラサン”が誇る、12体の『グレート雷門』が全滅 ……、3分も経たずにか!?  アイツ1人に『グレート雷門』が12体も! バ、バケモノか!?」
 驚愕の表情を浮かべ、持っていたスプーンを落とす。


「マ、マズイ!!」
 TERADAは慌てふためく。
 モニターに映し出されていた場所は、すぐそこだったのだ。
 このままでは、黒尽くめの男がすぐにやって来るだろう。
 ところがどっこい、余裕を決めていたTERADAは、この部屋に迎撃の準備はおろか、逃げる手段も用意していなかったのだ。
「クソ! クソ! クソ! 某S社のゲームじゃあるまいし、なんでこんなことに!? 僕は創造主様なんだぞ! 偉いんだぞ!!」
 TERADAが悪態をついたその時、
「TERADAァァァアアアーーッ!!」
「バ、バナナーーッ!?」
 突然、黒尽くめの男がドアを蹴破り、電光石火のごときの動作で、TERADAの腹や肩に銃弾を撃ち込んだ。
 そして、銃弾を撃ちこまれたTERADAは、大量の血をぶちまけながら床に倒れた。


 黒尽くめの男の名は、テンカワ・アキト。
 かつて、TIME・DIVER、ギリアム・イェーガーに出会い、また彼自身も”A級ジャンパー”という特殊能力により、TIME・DIVERになった男である。
 あれから、彼もギリアム同様数多の平行世界を駆け巡った。
 平行世界でギリアムの言った事が、改めて本当だったということを身をもって知るとともに、世界を捻じ曲げ悲劇を起こしている存在に気付く。
 彼は怒りを覚えた。
 他人の手によって、運命をもてあそばれる人々の姿を、己自身の過去に重ねて。
 そして、ついにギリアムとともにTERADAの謎を突き止めたのだ。
 だが、それを危惧した『グラサン』の卑劣な罠にかかり、ギリアムはアキトを助けるために命を落とす。
「テンカワ・アキト……この世界を操る奴らを……必ず、倒してくれ……」
 亡き戦友の意思を継ぎ、怒りと執念を力に変えた黒い王子、テンカワ・アキト。
 その悲願は達成されようとしていた。




 アキトは銃を構えたまま、倒れているTERADAに近付く。
「死ぬ前に一つ答えろ! なぜあんなことをし、多くの悲劇を引き起こした!?」
「な、なぜだと……!? バ、バカ……め。 変革……大いなる……『実験』には……多少の犠牲は……付き物……だ!」
「では、貴様が最初に死ねばいい!」
 アキトは、TERADAのこめかみに銃を突きつけた。
 これで全て終わる……、そうアキトが思った時、
「な、何!? TERADAがいない!?」
 目の前にいたはずのTERADAは消えていたのだ。
 大量の血を残して。





『???』

「ハッ!? こ、ここは!?」
 気付くと、TERADAは何もない部屋に立っていた。
 おまけに、アキトに撃たれたはずの傷が消えていたのだ。
 己に何が起こったのかわからないT○○ADAは、キョロキョロと部屋を見渡す。
「ここは……な!?」
 TERADAの目の前に、一体のマネキンが現れたのだ。
 そのマネキンは変哲もないただのマネキンだった。
 だが、頭頂部から下10数cmほどが透けており、そこには不気味な色をした脳みそが、
 まるで自己を主張するがごとく脈打っている。
「危なかったね〜 もう少しで死ぬところだったんだよ、君。」
「あ、あなたは……ダ、ダーク・ブレイン様!」
 TERADAは慌てて、頭を下げる。
「ダーク・ブレイン様じきじき私を助けて頂き、感激の極みであります!」
「ん〜 ま、そんなことはどうでもいいじゃない。 それよりさ、これ見てくれないかな?」
「は、はい。」
 マネキンが、『スーパーロボット大戦K』と書かれた企画書のような紙束をTERADAに渡す。
 それを緊張した面持ちで、めくっていくが、数枚めくったところでTERADAの手が止まり、
「……な、なんですとーーッ!? お、おやめください、ダーク・ブレイン様!」
「ん〜? なぜだい?」
「す、すでに山岡士郎、浜崎伝助という本来なら絶対にありえない2名を送っているんです!  また、シ者を操り、度重なる実験の副作用で誕生した”機械仕掛けの神”どもを減らす計画も思った以上に進んでいません! さらに、こんなことをすれば、無理が生じ世界が割れてしまいます!!」
 と、慌てて、ダーク・ブレインに説明した。
 ところが、
「楽しければいいじゃない♪ うん、きっとさらに混沌にまみれ、もっともっと楽しくなるぞ!」
「で、ですが!」
「……ところで……君は、何色が好きだい?」
 突然、好きな色は何だと質問してきたのだ。
 彼は戸惑いながら、ダーク・ブレインの質問に答える。
「は……? き、黄色です」
 彼は気付かなかった。
 ダーク・ブレインの手に『おしおきだべぇ〜♪』と書かれたリモコンが握られていることに。


「……テメエ! ホンマ、使えねぇ上に、つまんねぇ野郎じゃのう! 逝ってよしや! 逝ってよしィィイイイ! ポチッとなッ!!」
 黄色と聞いたとたん、笑顔を浮かべていたダーク・ブレインが操るマネキンの表情が、すぐさま悪鬼のごとくそれに変わる。
 そして、”穴”と表示されているリモコンの黄色いボタンを乱暴に叩く。



 突如、TERADAの足元の床がぱかッっと開き、
「ひょッ!? ママーーーァァァ………………………………」
 彼は絶叫を上げながら、暗い闇の底に呑み込まれて逝った。
「僕が一番『実験室のフラスコの世界』を上手く『実験』できるんだ!」
 と、豪語していた男のあまりにも悲惨すぎる最期だった。
 しかし、TERADAはまだ幸運だったのかもしれない。



「クソったれっが! 一番楽なの選びやがってからに! ワイが楽しめねーじゃねーかYO!!」
 ダーク・ブレインは手に持っていたリモコンを、乱暴に壁に投げつける。

 青と答えていれば、部屋丸ごと硫酸で満たされ溶かされてしまっただろう。
 緑と答えていれば、毒ガスでじわじわと殺されていただろう。
 白と答えていれば、部屋の空気を抜かれ窒息死していただろう。
 赤と答えていれば、全身の血を抜かれ死んでいただろう
 金と答えていれば、人間爆弾にされていただろう。
 銀と答えていれば、ギロチンで足、手、そして最後に首を刎ねられていただろう。
 どの色のボタンも、ダーク・ブレインの残虐性をよく表していたのだ。


「こうして、そうして、ああして……イヒヒヒヒ……はっ! いかん、いかん! これはジェントルマンとしてふさわしい言動ではないな」
 そう言うと、マネキンの顔は悲しみの表情に変わり、どこからか別のリモコンを取り出した。
 そして、ありがとうと書かれたボタンを丁寧に押す。
 すると、TERADAの遺影が壁に備え付けられた。
 それに手を合わせ、ジェントルマンらしく、TERADAの冥福を祈る。
「TERADA君……今までありがとう。 そして、君の犠牲は絶対に無駄にしないことを誓う。 だから安らかに眠りたまえ……ラーメン!」
 



「……ま、こんなとこかな? それより、あのテンカワという青年、良いじゃないか。 私のスペア・ボディにふさわしい素体だ! ……そうだ! 彼にアレをこっそり植え付けよう! きっと、最高のスペア・ボディになるに違いない! 素晴らしい! ……ウッヒャヒャ……ウッヒャヒャヒャヒャヒャヒャーーッ!!w」
 ダーク・ブレインの不気味な哄笑は果てしなく続く。



 こうして、”実験室のフラスコ”の世界は、さらに混沌に染まっていくのだが……。
 それに気付く者はまだいなかった。






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